親方の技と志を守り、住み手の理想に柔軟に / 濱田拓大

エビナ製材の「大工力」の要の存在、大工歴20年以上の濱田さんにお話をお伺いしました。
エビナ製材では、新築、建て替えをメインに担当していただいています。これまでいろんな工務店からのお仕事を依頼されてきた濱田さんが「エビナ製材みたいに融通の効く工務店はない」と言います。大工さんも驚くエビナのお客さま目線の家づくりとは??
大工を目指したきっかけから教えてください。
子どものころ、近くの店にお客さんとして来ていた大工さんと仲良くなって。それが、のちに僕の兄弟子になる人で、「大工はこうや、ああや」と教えてもらううちに憧れたんですね。大工になろうと決めたのは高校に入ってから。高3の5月には親方に引き合わせてもらいました。
その親方が市原さんと中塔さん、エビナ製材の木の家を建てていた大工だったんですね。お二人の印象は?
二人とも面白いおじいちゃん(笑)。親方というより、気さくなおじいちゃんという感じでした。大工になりたいと申し出ると歓迎してくれ、高校卒業後に弟子入りしました。
※市原さんと中塔さんは、現在引退されています。
仕事を始めて、親方の印象は変わりましたか?
すごい人たちだなと。何を聞いても答えてくれる。聞きやすい環境を作って全部教えてくれました。
昔気質の大工さんは「見て覚えろ」というイメージだったし、兄弟子から「親方が黒と言ったら、白いものでも黒」みたいなことを聞いていたけど、全然違ったんですよ。うちの親方は頭が固くなく、こんな新しいやり方はどうだろうと相談すると「ええやんけ」とやらせてくれた。叱られたこともないですね。
こんな技を受け継いだ、というのは?
親方二人の得意技をすべて、ですね。親方はそれぞれ得意な分野があって、仕事の内容が別々だったんです。一人の親方の仕事を覚えたら、次の親方の仕事を覚えるという流れで学びました。
今も家のつくりは、親方のやり方がベース。例えば、先行幅木(幅木=壁と床の境目のパーツ/壁下地の石膏ボードを貼る前に幅木を設置し、その凹み部分にボードを差し込む方法)。他社はたいてい壁のボードを貼ってから薄い板を貼るだけで、床が木の場合は乾燥でやせて隙間ができやすいんですね。そうした不具合が発生しないよう、手間がかかっても必ずやっています。
技術が身につくまで何年かかりました?
いやー、はっきり何年とは言えないですね。現場が変わればやり方も変わるので、その都度また新たに教えてもらう感じになるんです。特にリフォームは一現場一現場まったく違いますしね。メインで動く親方に従って、任された部分の仕事を覚えていきました。
独立されたのはいつですか?
27歳のときです。子どもの誕生がきっかけでした。親方に教わった技術はどこ行っても通用するものだから、独立は怖くなかったですね。。二人とも「頑張ってこい」と背中を押してくれました。
その後、どこで仕事を?
他社の仕事を請けていました。でも、そこの社長と考え方が合わなくて。お客さん目線じゃないんです。「こうしたほうが」と提案すると、すぐお金の話に持っていってしまう。最初に決まった範囲内の仕事しかできませんでした。
それでエビナ製材に? いつからですか?
10年ほど前です。実はのぶさん、海老名社長とは僕が親方のもとで働いていたころからの付き合い。出会った当時はまだ材木屋さんで、その後、自社で木の家を建てるようになっていました。
エビナ製材は、お客さん目線でした?
海老名社長自身がそうでした。僕の親方も「お客さんが喜ぶのがベスト」と言っていたし、僕だってお客さんのしたいことを形にしたいと考えていました。
それでも、一緒に始めた当初はうまくいかなくて。海老名社長はお客さんの希望を聞いた際に、できないこともできると言いがちだったんですよ。してあげたいのは分かるけど、大工からすれば希望どおりできないケースもある。もちろん僕も極力叶えたいので、「こうならできます」という提案を伝えるために、社長とお客さんとの打ち合わせに参加するようになりました。
施主さんとの打ち合わせに、大工が参加するのは珍しい?
たぶんエビナ製材だけです。ふつう、施主さんは大工と会う機会がほとんどない。棟上げのときに顔合わせする程度で、そこまで建てば現場に入れてもらえないだろうし、話も営業や現場監督を通すよう言われると思います。
僕は家を建てている現場で直接お客さんと話して希望を聞いたり、その場でお客さんと設計変更を決めて海老名社長に事後報告したりもします。
現場で設計から変えることは、よくあることなんですか?
あまりないと思います。設計も、最初に決めた図面からまず変えられない。エビナ製材なら僕が現場でお客さんと話して「こう変えます」と社長に報告したら、「それでいいよ」と。社長は「浜田君ができると言うんならできます」と、お客さんに太鼓判を押す感じです。僕も言った以上、大変でもやらんとあかん(笑)。
こんな希望を聞いた、という具体例を教えてください。
そうですね、多いのは窓の位置かな。現場で見て「もう少し上のほうが」という場合があるんですよ。サッシまでつけた後だと追加料金が発生するけど、まだついてない下地の状態でお客さんに変更を決めてもらえば、追加料金なしで高さを上げ下げできます。
かなり融通が利くんですね。
エビナ製材は自由度が高いんです。打ち合わせは毎週でもできます。現場には、大工がいる間は好きなタイミングで見に来てもらってOKです。他ではこれだけ密に大工と話をし、現場を見て、家の中を決められないと思います。
工事の期間は大体どれぐらいですか?
僕自身はエビナ製材では2カ月~2カ月半を見ています。一般的には住宅で1カ月~1カ月半ですね。
工事期間が長い理由は?
お客さんに考えてもらう時間をとっているからですね。初めて家を建てるときは、ある程度出来上がった状態でないと分からないじゃないですか。なので、打ち合わせのたびに「次までにここを考えてきてください」と伝えます。でも焦って決めなくていいんですよ。もう少し考えたいと言われたら、そこの工事を止めます。もし進めた後で変更になって壊す工程が発生すると、お客さん負担になってしまうんで。
確かにお客さん目線。施工途中でも柔軟に対応されていますね。
お客さんは設計図通りに建てるものというイメージがあるから、よく「えっそんな変更できるんですか!?」と驚かれます。万が一追加料金が発生しそうな場合は、先にお客さんに伝えて、海老名社長にもそう話す。うまいこと連携をとってどうするか決めます。
基本はこだわりを形にするんですけど、大工として見て使い勝手が悪いものなどは、お客さんに提案してまるごと変えることもあります。
正直、大変なんじゃ……?
うーん、たまに(笑)。でも面白いですよ。お客さんが現場に来て「わあ、進んでる」と喜ばれている顔を見ると、作り手側もやった甲斐がある。完成後に「濵田さんにやってもらえて良かった」とお礼を言ってもらえると、本当にうれしいですね。
今現在、エビナ製材での仕事の割合は?
100%です。エビナ製材の仕事をメインに動いています。間が長く空くようなら他社の仕事もしますけど、エビナが始まる頃には戻ってきます。今の仕事は海老名社長との信頼関係があるからできている。社長じゃないと僕もここまでしないでしょうね。
リフォーム、リノベーションはどうですか?
親方に散々叩き込まれたので、木造だろうがRCだろうが、普通の住宅であれば何でもできます。よく分かっていない人だと、やっつけ仕事というか、隠して終えてしまう。古いものは特にちゃんとした大工、工務店に頼んでほしいですね。どれだけ直すかによっても、また変わってくるので。
他にもエビナ製材の良いところはありますか?
将来の保険ですね。打ち合わせの時点で「今は一部屋にするけど、いずれ仕切って二部屋にしたい」などのイメージを伝えてもらえば、それに向けて下地づくりをしておきます。将来的なことを見越しての家づくりをしているんです。
住み始めてから、壁掛けテレビにしたい、タオル掛けをつけたいと思い立っても、下地がなくて希望の場所につけられないケースは多々あります。エビナ製材では打ち合わせの時点で確認し、将来するかもと言われたら絶対に下地を入れています。
海老名社長も僕も、お客さんに喜んでもらいたいという気持ちが土台にあります。喜んでもらって、さらに将来も困ることがないように、これからも頑張っていきたいですね。
ありがとうございました。
(インタビュー:茂内希保子 撮影:江原英男)

